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INSIDE / OUTSIDE【012】 Interview with 中村穣二

画家としての活動をベースに、様々なアーティストとのプロジェクトや、グループ展の企画、ブックレーベル「K.M.L. BOOK」の運営など、
国内外とか、ストリートと美術界の間とか、そんなボーダーお構いなしで自由気ままに行き来する中村穣ニ氏。
3年ぶりの個展に合わせて、 極めて真面目にインタビューを敢行した。

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。

高校時代からパンクが好きでライブに通っていて、フライヤーをよく見ていたんです。それで楽器に行くよりはそっちに行って、
見よう見まねでコラージュをつくったりしたのがきっかけです。
それから大きかったのは、2年半くらいアメリカに留学していたとき。
ルームメイト達が、写真、グラフィック、ペイントなんかをやってて、みんなアート系だったので自然と身近にある感じになりました。
ちなみに写真をやってたジャレット君は、いまNIKE SPORTSWAREのデザイナーをやってます。
写真が専攻だったのにデザイナーになりたくて洋服つくってたりしてて、自由な感じで(笑)

ー帰国後は、どのような活動からスタートされたのですか?

絵の売り方が全然わからなかったので、とりあえず雑誌やお店に作品を持ち込むことから始めました。
雑誌『DUNE』の編集長だった林文浩さんにもそのときにからお世話になりました。
帰国後、実はいったん就職しかけてたんですが、いざとなったら、これやっぱ無理だなーってなって(笑)
それで留学中にアメリカの本屋で読んでかっこいいなと思っていた『DUNE』にとにかく連絡して、絵を見てもらいました。
林さんがそのとき「写真はメディアもあるし可能性もある。絵は難しいけど面白いし、大変だけど続けろ」と言ってくれて。
まあこんなに大変だとは思いませんでしたけど(笑)

ーギャラリーに作品を持ち込んだりはしなかったんですか?

してないですね。そういう仕組みをまったく理解してなくて(笑)
極端な話、どうやったら「画家」とか「アーティスト」になれるのか全然知らなかったんです。
アメリカでも、スケーターとかバンドやってるやつらが作品つくってテキトーに集まって発表したりっていうスタイルに惹かれていたので。
いまでもそれは抜けてなくて、カウンターであることに憧れとかかっこよさを感じちゃってて、それでだいぶ足を引っ張られてる気もします(笑)

ーZINEをつくりはじめたきっかけは?

帰国して売り込みをしていた頃がちょうどストリートアートが日本に入って来た時期で、
ZINEにはじめて出会ったのも『DUNE』の林さんがきっかけでした。
林さんがタワレコにZINEのブースをつくることになってて、そこに参加させてもらったんです。
林さんと『DUNE』の影響はやっぱり大きかったですね。

ーZINEというメディアには、やはり特別な思い入れがあるのでしょうか?

思い入れは正直あんまり無いですね。
よくコミュニケーションツールとか言う人もいるんですけど、みんな言ってるからあえて僕が言う必要もないなーと(笑)
そういう感情的な理由よりは、手っ取り早いというか、作品をたくさん描いているのですぐまとめられるし、
効率的なところに魅力があるのかなと。便利だなと思います。
これからつくろうと思っている人たちにとっても、そういう理由って重要な気がしますね。

ーここ数年、ZINEがメディアとして急速に広がっている現状をどうご覧になられてますか?

昨年から今年にかけて加賀美健君とやった「陣内隆展」は、まさにそれに対する疑問から始まりました。
とあるZINEフェスにはどうやら出品するのに選考があって、選ばれた人しか参加できないみたいだというのを知ったんです。
そりゃないよって話してて。まあ自分たちが呼ばれないせいもあるんですけど(笑)
じゃあもうこっちはこっちで架空のZINEフェスやっちゃおうよってなったんですよね。
勝手に架空のアーティストをでっち上げて、そんな人誰も存在しないっていう「ZINE GENERATION」って展示をやりました。
そんな感じで人を騙してやったんですけど、来てくれた人は、それはそれで喜んでくれて。
そこから今度は陣内隆っていう「ZINEの神様」をつくって盛り上げて、嘘に嘘を重ねて…(笑)

それぞれZINEの捉え方はあると思うんですけど、僕は手軽さとか自由さっていうところに魅力を感じているんですね。
コスト的にできることが限られている分、何をやってもいいのがZINEだと思ってたんですが、最近のものはすごくお金がかかっていたり、
作り込まれていたりするものが多くて、それはそれでいいんだけど、それはZINEの本質から離れていっちゃってるんじゃないかと思うんです。
ましてや、誰でも発表できるものだったのに「選ばれる、選ばれない」とか、そうなってくるともうZINEじゃなくていいじゃんっていう。
そこも選ぶようになっちゃったら、困るひとたちいっぱいいるよなーって。
いろんなところで選ばれなかった人が思いの丈をぶつけてたりするのに、それすらも奪い去るのかってね。
ちゃんと文化として根付く前にさらっていっちゃうみたいなのはどうかと思いますね。悲しいですね。

だから「ZINE GENERATION」は、ZINEを使ったインスタレーションみたいなもので、最初は騙されたと思ってた人も、
コンセプトを話すと妙に納得してくれたりして。
案外僕らが感じてる違和感を、買ってくれる側でも感じてる人が多いことがわかったんで、やってよかったですね。
今後も効率的なフォーマットとしてZINEをつくることには変わりないですけど、最近はコピーすら面倒で、手書きをバンバン売りたいくらいです(笑)

ー運営するブックレーベル「K.M.L. BOOK」について教えてください。

立ち上げた2000年代頭はグラフィティ文化が盛り上がって来た時期で、まわりにも多かったんですが、それ以外の、
ドローイングとかペインティングとか写真をやってる人たちの表現の場をつくろうと思ってはじめました。
その頃も結局は美術業界のことがよくわかっていなかったので、自分たちで表現の場所をつくるしかないと思ってました。
バリー・マッギーとか自分の好きなアーティストがストリートからフックアップされていったみたいなストーリーを信じていたし、
そういう海外で見聞きしたみたいなことを起こせたらいいな、起きないかなーと考えてました。
ただストリートにいるから美術界は嫌いとかも一切なくて、ただただ知らなかっただけですね(笑)

ーバリー・マッギーの名前が出ましたが、影響を受けたアーティストはいますか?

アーティストに関していうと、巨匠クラスの影響や憧れが大きいと思います。
もちろんまわりにもいろんな影響を受けてますが、作品制作に対する影響はあまりないですね。
サイ・トゥオンブリーやジャクソン・ポロックなんかが好きだし、最近だとジョー・ブラッドリー。
ジョー・ブラッドリーは同世代かな。
彼らの作品を見てると、描きたい衝動に駆られますね。

ー久しぶりの個展ですが、個展にしようと思った理由はありますか?

個展は3年ぶりくらいですかね。
グループ展が多かったり、昨年は「better never than late」の巡回や加賀美君とのユニットが続いていたり、
たまたま間が空いちゃったって感じです。
グループ展はなんとなく始めちゃうから、重なっちゃって。

ー個展とグループ展のキュレーションはだいぶ違いますか?

やっぱり違いますね。
グループ展はお客さんの立場で、見てみたいアーティストの組み合わせを考える、妄想からスタートする感じ。
参加してくれるアーティストとお客さんが喜んでくれたらいいな、ということを考えてやっています。

個展は次の自分を見たいとか、次の自分が表現するものを見てみたいというのが一番です。
それから、作品を発表することで、社会の反応を見てみたいというのもあります。
もちろん自分のために描いてはいますが、やっぱりダイレクトな反応も気になりますね。
だから、楽しむという要素は個展には少ないかもしれないです。

ー『WHITE SHOW』というタイトルには何か意味があるのでしょうか?

単に語呂がよかったんですよね(笑)
まず「SHOW」という言葉を使いたくて、いい組み合わせの単語を考えました。
それでしっくりきたのが「WHITE SHOW」だった。
なんか意味がありそうで、読みやすくて、語呂がいい(笑)
いつもタイトルには極力意味を持たせないようにしてるんですよ。
今回は自分で考えたものですが、曲名を引用することも多いですね。
情報料を極力少なくして、意味は見てくれた人に委ねるというか、どう感じ取ってくれてもいいようにしてます。
同じ理由で絵にもあまり題名を付けません。

ー今回の個展のテーマみたいなものはあるのでしょうか?

僕はずっと人と人の感情を描いてます。
それは今回の個展に限らず、一貫して表現したいものですね。

ーそれでは、今回ひとつの個展というかたちで作品を発表するに至った理由を教えてください。

これまでずっと絵を描いてきて、その都度これはいいというものが出来たとは思っていたんですけど、
どこかでもっと違う自由なレベルがあるはずだと感じていて、満足しつつも不満足みたいなもどかしさがあったんです。
このまんまじゃいかんなみたいな。
ストリートにしても美術業界にしても、本気で向き合うにはそのラインを超えなきゃいけない気がしてて、それが超えられていなかったんですよ。

でもある時に、いろいろ描いてるうちにどんどん自由になっていって、朧げにそのラインが見えてきたというか、超えられた気がする瞬間があったんです。
それを見せることが怖くなくなったとき、自分の背景を置いといて作品を見せられる確信が持てて、ひとつラインを超えられたかなーと。
例えば、ひょろひょろっと描いたものが自分の中ですごくよくても、これまでは人に見せていいものかいまいちわからなかったんです。
でもそれが、プロセスは関係なく自分を離れたひとつの作品として自信を持って世に出せるようになった。
さらに言うと、これまでは偶然できていたものを、ちゃんと描けるようになってきたというのもありますね。
こういう感覚は、絵を描き出してからはじめてでした。

  

すべて「NO TITLE」2012

ーそう思えるようになったきっかけのようなものはありますか?

なにがきっかけかはよくわからないですね。
ただ身近な存在なので言うの恥ずかしいんですが、加賀美君と一緒にやり始めてからそう思えることが多くなった気がします。
加賀美君にもラインがあるのかなと思います。かっこいいとかかっこ悪いの基準が明確。
ソフトな人だけど、ずっと美術業界でやってきたアーティストとしての強さみたいなのには影響を受けてると思います。

ー最後に、今後の展望を。

当面は今の表現方法を続けていくと思います。単純に描いてて楽しいので。
やっていくうちにどうなっていくかは自分でもわからないですが、自分なりの落としどころを見つけていきたいです。
近いところで言うと、年明けに東京でも個展をやりたいと思ってて場所を探してます(笑)
あと、それまでに作品集も出したいと考えてます。

ー東京での個展も作品集も楽しみにしてます。本日はありがとうございました。

Interview : yop
Photo : Seiji Himura(SLANT)

[展覧会概要]
WHITE SHOW 中村穣二
supported by adidas Originals

□会期:2012年11月10日(土)~11月18日(日)月曜定休
□時間:11:00 ~ 19:00
□会場:SLANT 石川県金沢市広坂1-2-32 2F
□tel:076-225-7746
□入場料:無料