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INSIDE / OUTSIDE【013】 Interview with 田中貴志

 

YAECAやleur logetteなどの人気ブランドのカタログ、石川直樹の写真集『Manaslu』やSLANTが発行するタブロイドシリーズのデザインを手がける田中貴志。
人気デザイナーとして多忙な日々を送りながら、アーティストとしても多くの人を魅了して止まない。そんな田中貴志がつくり、楽しむ「POPTIME」とは?

-まずはご経歴から伺いたいのですが、はじめからアーティストやデザイナーになりたいと考えていたのでしょうか?

高校卒業後、最初は文化服装学院でバッグや靴などの小物を制作する学科に入学したんです。
もともとサッカーシューズマニアだったので、靴づくりの勉強をしたかったんですが、入ってすぐにちがうなと感じました(笑)
技術的なことを勉強したかったのですが、僕の勘違いでファッションデザイン寄りのところに入ってしまったんです。
授業で紹介される卒業生の優秀な作品例には、靴に鳥カゴがついたのが選ばれていましたから…。

卒業はしたものの、何がしたいのか自分でもよくわからなくなっていました。
ただ、漠然と何かをつくりたいという気持ちは変わらなくて、その基本として必要なのが絵を描く技術だと思いました。
そこで、学費が安くて先着順に入れるセツ・モードセミナーに入学したんです。
夜はパン屋さんでバイトをしながら、学校ではひたすらクロッキーを描いてましたね。

-セツ・モードセミナー卒業後、そのまますぐに先生を任されたと伺いましたが。

卒業が近づいた頃に学校から急に呼び出され、先生をやってみないかと誘われたんです。
待遇がすごく良かったので、すぐに引き受けることにしました(笑)
勤務は9時半から14時、もしくは18時から21時半のどちらか。
収入も安定して自分の時間が多く持てるようになったこの頃、本格的に作品をつくり始めました。

ギャラリーに行ったり一番色々なものを見られていたのもこの時期です。
このときは本当に自由で、坂道を自転車で下っていた時に思わず「幸せだなー」とか考えたりしてましたね。
まわりのみんなからは「田中は夢の国にいるんじゃないか」と言われてました(笑)

-絵を描きはじめて、影響を受けたアーティストはいましたか?

セツに入る前はモンドリアンとかウォーホールなど有名なアーティストしか見てなかったんですが、
セツには美術に詳しい人がたくさんいたので、いろいろと教えてもらって影響を受けました。
そういう人の中には「セツのバスキア」や「セツのマティス」なんて呼ばれてる人もいましたよ(笑)
当時から、作者の内面を出す作品はあまり好きではなくて、ポップアートがとにかく好きでした。

-その後、セツを離れてアーティストとして活動していこうと決めたきっかけはありましたか?

5年くらいそういう生活が続いて、江戸川橋のLA GALERIE DES NAKAMURAというギャラリーではじめての個展をすることになったんです。
ちょうどその頃、セツとの契約も終了することが決まっていたので、アーティストとして活動し始めるいいタイミングだったのかもしれません。

 

-はじめての個展を開催した経緯を教えてください。

LA GALERIE DES NAKAMURAは、当時まだ珍しかった古い建物をリノベーションしたギャラリーだったんです。
最初はとにかくその建物に感動して、いつかここで展示をしたいと思いました。でも、自分から声を掛ける勇気はなくて。

そうこうしてるうちにLA GALERIE DES NAKAMURAの入ったビルの1階にlimArtができたんです。
お客さんとして通っているうちに仲良くなって、作品をつくっていることやLA GALERIE DES NAKAMURAで個展をしてみたいことを話していたら、
limArtの廣田さんが「私が紹介してあげる」と言ってLA GALERIE DES NAKAMURAの人にスペースが借りられるように話をしてくれました。

-そのときの個展ではどのような作品を展示したんですか?

そのときに展示したのは、グラフィックテープを使用した作品と「POPTIME」でした。
limArtの人たちはそのときはじめて僕の作品を見てくれたんですが、「POPTIME」をとても気に入ってくれて。
その後、1階のlimArtで「POPTIME」だけの展示もしてくれました。

-「POPTIME」のことは後で伺いますが、limArtで働きはじめたのもその頃ですか?

2005年にlimArtが恵比寿に移転するタイミングで、2階が空いてるからアトリエとして使わないかと誘われたんです。
僕はイラストレーターの山本祐布子さんと部屋をシェアすることになり、隣には写真家の若木信吾さんもいました。
それから「上にいるなら下で働かないか」と言われ、昼は1階で仕事をして、終わると2階で作品を制作するという生活を送るようになりました。
仕事では最初は販売のスタッフをしていましたが、そのうちlimArtのデザインを手伝うようになり、
それを見た外部の人からも徐々にデザインを頼まれるようになりました。
セツのときもそうだったんですが、僕はとにかくそういう「人の縁」に恵まれてて。ラッキーなんです(笑)

-「人の縁」で言うと、2010年にSLANTで展示をしていますが、何かきっかけがあったんですか?

SLANTの日村さんが、ギャラリーを始める前からlimArtにお客さんとして来てくれていて、自然とお話しするようになったんです。
作品をつくっていることを話したら興味をもってくれて、その後作品を見てもらい個展を開催してくれることになりました。
前回はグラフィックテープの作品と「POPTIME」を両方展示しましたが、今回は「POPTIME」のみの展示です。

-さて、そろそろ「POPTIME」について教えてください。最初の個展から発表し続けているとのことでしたが、何かつくるきっかけはあったのでしょうか?

セツの卒業生で辞書などの束見本をデザインしている人がいて、学校の中庭に来て不要になったサンプルを販売していたんです。
僕は出遅れて買えなかったんですが、いっぱい買っていた友達が「田中君好きでしょ」って僕にもくれて。
その束見本にコピーした紙を切り抜いて貼ってコラージュをつくったのが「POPTIME」のはじまりです。
上からスクリーントーンを貼るとクラフト感が消えるのが好きで、手作りなんだけど手作り感の見えないコラージュを目指していました。

 

 

-ではこのようなコラージュのシリーズが「POPTIME」になるのでしょうか?

いいえ、「POPTIME」は日記みたいに日々気軽につくっていける作品のことです。
グラフィックテープの作品は気合いを入れて制作に臨まなければなりませんが、「POPTIME」は楽しみながら制作できる。
決まったテーマやフォーマットがあるわけではなく、「POPTIME」の中にいろいろなフォーマットがあります。
つまり「POPTIME」かどうかを定義づけるものは、制作に対するスタンスということになると思います。

-ということは「POPTIME」は他人をPOPにさせるというよりは、自分にとってのPOPな時間ということでしょうか?

そうですね。
仕事の合間に「POPTIME」を制作し、いいものが出来上がるとテンションが上がって、それか仕事にもいい形で還元されるんです。
さらにそれを見てくれた人にもPOPになってもらえれば言うことなしですけど。
デザインの仕事が多くなってグラフィックテープの作品はなかなかつくれないんですが、その分「POPTIME」はいい作品がたくさんできています。
今回の個展で展示されている作品はすべて未発表の新作で、「POPTIME」の2013年度版から選りすぐりのもので構成しました。

-作品のタイトルを見ていると、音楽に着想を得たものがよく見られますが。

音楽に限らず、日常的に印象に残ったものをモチーフに制作しています。
見聞きしたり頭に浮かんだでおもしろかった言葉や、好きなマンガのキャラクターなどをまとめたり。
今回展示しているものの中には、作品をつくっている過程で捨てようと思って重ねていた紙の束がふと気に留まって制作した作品があります。
とにかく、日々のさまざまなシーンからインスピレーションを受けていると思います。

 

 

-SLANTが発行するタブロイドシリーズのデザインを手がけてこられましたが、ご自身の「2」をデザインするに当たってこれまでと違った点はありましたか?

『5』から『3』は与えられた素材があって、限られた中で試行錯誤してつくっていく感じでした。
一方、『2』は自分が見せたい作品が頭の中にたくさんあったので、どんどん欲張りになってしまいました。
自分の作品を自分でまとめると、どうしても「田中貴志大全集」のようになってしまって(笑)
でも日村さんや周りの人の意見を聞きながら数を絞ったり修正したりして、最終的に納得のいくものになったと思います。

 

-では仕事でのデザインと、アーティストとしての作品制作に対して、考え方やスタンスの違いはありますか?

やはりデザインは依頼する人がいるもので、作品は積極的につくり出すものだと思うので、根本的には違います。
ただし僕の場合、作品を見て仕事の依頼をしてくれることが多いんです。展示を見て依頼をくれたり。
YAECAさんとかもそうですが、それを見た人がさらに依頼をくれたりして。けっこう自由にやらせてもらっていると思います。

-最後に、今後の展望を教えてください。

そろそろグラフィックテープの作品をつくって発表したいです。
なかなか手がつけられる状況ではありませんが…(笑)
あ、それから「ジョージ・ルーカス」というバンドをはじめました。

-唐突ですね(笑)

詳しくは言えないんですが、SLANTのsoundcloudに音源をアップしているのでもしよかったら聴いてみてください。

その他の音源はコチラから。

Interview : yop
Photo : Seiji Himura(SLANT)

Information
Tanaka Takashi Collection 2013
POPTIME
□会期:2013年8月11日(日)~9月16日(月)月火定休
□時間:12:00 ~ 19:00
□会場:SLANT 石川県金沢市広坂1-2-32 2F
□tel:076-225-7746
□入場料:無料

Publication
『2』
タブロイドサイズ、フルカラー、24P
525円(税別)
2013年 SLANT刊