fairgroundメンバーのひとり、no.9こと城隆之。
日常の景色から色とりどりの美しい音楽を生み出すこの音楽家が抱く思想 <INSIDE>と、
昨今のカルチャー事情に対する感情<OUTSIDE>、
そしてno.9にとってのコミュニティfairground(以下FG)とは 何かを尋ねた、
FGインタビュー・シリーズ第一弾。収録は長野諏訪湖のほとりにて。
INSIDE
ーno.9の「音楽」はどこから生まれてくるのですか?
日常のどこにでもある風景に、どこにでもあるドラマに耳を澄まそうとしているよ。
それらを聞き逃さないように普段の生活があるんだ。 目の前にいる毛虫や蜂みたいな小さい生物に、
あるいは誰にも気に留めてもらえないような道路の片隅の小さな花にイマジネーションを働かせ、
見えてくる景色 を音で表現する。言語化できない景色や個人的な記憶を音にしたとき、
どれだけそこにリアリティを抱かせられるかが僕にとっては大事なんだ。
ー音楽の「美しい部分」とは何だと思いますか?
誰にでも平等に想像出来るところだと思う。
たとえ僕が経験した出来事を音楽にしたとしても、
聞いた人にはその人の経験に置き換えることが出来る。
聞いた環境、聞いた時の精神状態、誰とどこで聞いたかなどで一生心に残る大切な曲になったりする。
音楽は創り手の意志に関わらず、誰かに愛されたりするんだよ。
ー「すべての表現には毒が必要だ」と言われていましたが、音楽における「毒」とは?
『ひっかかるもの』や『こだわり』という個の主張だったり、エゴみたいのものだったりするのかな。
ありふれたものを、ありふれたように創っても僕にとっては意味がない。毒はいつしか心に残るもの。
美しい正和音の並列にふとある不協和音は、時にどんなも のより美しかったりするんだ。
というより、まずいものを食べた方が、美味しいものをより美味しく感じることができると言うべきかな。
表現という意味では、 正直になるということかもしれないね。
さらにアーティストの思想と哲学も音楽あるいは芸術全般が持つ「毒」の部分だと思う。
つまり、作品の中にそのアーティストだけが鳴らすことのできるものが「毒」であり、
その「毒」にこそ、僕は魅力があると思っているんだ。
ーno.9が目指す音楽とは?
遠い先のことはわからないけど、今は僕を含めた誰かが感動する音楽を創りたい。
手法やテクノロジーだけに依存せず、心で創りたい。ア ナログでもデジタルでも
垣根無く選択肢のひとつとして取り入れて、自由に創り、音楽を愛して、音楽に愛されたい。
僕らしくありたいけど、『僕らしさ』とは 僕ではなく、リスナーが意識の中で創り上げるものだと思ってる。
えらそうに聞こえるかもしれないけど、そうやって誰かに期待されたいんだよ。
この人はもっ と素晴らしい音楽を創ってくれるんじゃないか?ってね。
OUTSIDE
―インターネットと音楽業界について
ここ数年で状況は激変したよね。今まで以上に、ただ一枚のCDを買ってもらうことが
どれだけ難しいかは音楽に関わる人間すべてが痛感 している。
光学式メディアからデジタル配信へ流れはもう止まらないし、それで良いと思ってる。
ただ同時にその落とし穴もある。インターネットと音楽の話については、
このFG企画で改めて話したいと思ってるよ。
ひとつ言いたいのは、一瞬で好きになった音楽は飽きやすい。
数十秒の試聴だけで買った音楽だけを聴くのは、ショートケーキでイチゴだけを食べ続けるようなものだよ。
一枚のアルバム作品の中で、最初に好きになった曲より、一年後は違う曲が好きなっていたりするよね。
それは自分の成長だったり、音楽の趣 味が広くなったり、心境や環境の変化だったりする。
好きなものだけ食べ続ければ、もういらないと思ってしまうよね。
それによって最近の音楽はつまらないと 言われたら悲しいかな。
まぁ、それでも音楽を創る人はどんな状況に置かれても、
さらなる良い曲を創ることしか無いんだけどね。
結局の所、良い音楽は残ると信じているし、
僕は自分の人生でまだ生んでいない名曲と言われるものを創ってみたい。
それだけを考えていたいんだ。
ーでは、信じるべきものはなんでしょう?
すべては人じゃないかな。誰かの拍手、誰かの笑顔、誰かの感想。
少なくとも僕は『誰か』がいないと音楽を創る意味を感じない。
以前、 手紙をもらったことがあって、僕の音楽を聞いて、命を救われたと書いてあったんだ。
僕が誰かの役に立ったような気がしたよ。嬉しかったし、音楽を創る責任 を感じたんだよね。
発信する側にとっても、ジャケットをデザインする人、流通に関わる人、
プレスやマスタリングをしてくれる人、本当に多くの人が作品に関わり、誰かの手に届く。
多くの人の想いをのせて、一枚のアルバムは世に羽ばたいていくのだから、
すべての人に感謝して、音楽を創らなくちゃね。
INSIDE×OUTSIDE → Community
ーno.9にとって、コミュニティfairgroundとは?
様々なプロフェッショナルが集まることで以前よりも数段すごいものを創る機会があるよね。
モノ作り大国日本だった昭和から、情報やテクノロジーの平成へ。
芸術はもちろん、webサイトやデザイン、建築、ビジネスに至まで僕の周りには
尊敬出来るプロフェッショナルが多く存在する。
僕らがコミュニティーを発足することで、また多くの人材に出会える機会も増えると思うんだ。
ここにいると何かできそうと思える期待の集団になればいいと思う。
大きな企業ではなく、こういったコミュニティーがひとつのプロジェクトを
担う時代がやってくると思うんだよね。
例えば、ひとつの公園などの公共的な施設をリデザインするとかね。
音の鳴るブランコや自由に絵の描ける滑り台とか夢のあるクリエイティブや
企画に対していつでも応えられる自由な集団になればいいな。
とりあえずはウェブサイトを中心に月に1回のミーティング、ライブ、クリエイションなどを通して、
あらゆる創造の経験を共有できれば、きっと個から発信するだけじゃできない、
違った結果を生み出せる気がする。それはビジネスであってもいいし、
プライベートでもいい。ただし、どちらにせよプロフェッショナル でありたいけどね。
個の経験を生かした集団としてのスタイルができれば、
新しいことにチャレンジができるし、それは同時に集団の可能性にもなる。
可能性がまた新たな可能性を導くように、良いコミュニティーはそういう循環を持っているんじゃないかな。
とってもわくわくしているよ。
no.9 ( ナンバーナイン )
1973年生まれ。作曲家、サウンドデザイナー。
城 隆之のソロプロジェクトとしてのアーティスト名義でビートルズのThe White Album [ Revolution 9 ]より命名。
数多くのCMやweb広告、機械のサウンドデザインなどを手がける傍ら、
アーティストとしても精力的な作品を制作し、現在まで6枚のフルアルバムをリリース。中でも[ usual revolution and nine ]というアルバムはパッヘルベルの
名曲CANONのremixなどを含む楽曲群が話題を呼び、
現在でも多くのリスナーに指示を受け、多くのコンピレーション作品やリミックスなどにも参加。感情と温度のある音楽として、電子音と生楽器の融合を見事に果たしている。
ライブにも定評があり、CDの楽曲をno.9 orchestraという大人数のバンド編成で演奏し、
2010.11.27 金沢にある21世紀美術館にて初のワンマンライブを開催予定。
撮影:David Ventura
編集:arina