feature

Interview with michi

interview

INSIDE / OUTSIDE【007】Interview with michi

2011年、[ PMAJ ] *Projection Mapping Association of Japanを立ち上げ、
8月4日から逗子小学校で始まるZUSHI MEDIA ART FESTIVAL 2011にて
校舎や教室を舞台に様々なプロジェクション・マッピングを開催する映像作家michi。
音楽イベントでもVJというよりも空間演出という幅広い映像表現で様々なアーティストの演出を手がけている。

Youtubeやニコニコ動画などの台頭により映像時代といわれる現在、
新たな映像の在り方や現在に至るまでの思考などお話を伺った。

—まずは現在に至るまでの経歴を教えてください。

1974年9月17日、大阪で生まれ、埼玉とその後長崎で育ちました。
両親はオペラの声楽家でもあり、母親は長崎の波佐見焼という陶芸の窯元でした。
小学校1年か2年の頃に絵のコンクールで賞を取って、そこから絵に興味を持つようになり、
高校時代から美術とかデザイン系の学校に通い、武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科に入りました。
今でもそのきっかけとなった絵は実家にあるんだけど、子供の頃の無垢な絵が初心に返らせてくれるんです。

感覚的なものを大切にする両親のもとで育ったので、その影響も大きくあったと思います。
大学の空間演出デザイン科では舞台美術や環境(都市)計画、
インテリア、ディスプレイ、そしてファッションもあり、かなり幅のある学部でしたが、
この時点で自分の分野、幅を狭めたくなかったのと、自らモノを作るよりも、
モノを作るプロセスやその表現過程を探ることが楽しかったので、今思えば自分に合った学科だったと思います。

—どこで映像作家として活動を始めたのでしょうか。

当時、美術大ではインスタレーション表現を僕は好んで行っていて、
その表現の一部として大学3年の頃からプロジェクターを使うようになりました。
例えば巨大な白い立方体を作って、そこに映像をあてると、暗闇の中にぽっかりと宙に浮いた映像があり、
その映像と連動して叫ぶなどのパフォーマンス的な表現をやっていました。

ー現在のmichiさんのスタイルとも言える空間演出という要素はいつ頃から始めたのですか?

映像表現としては、スクリーンでのいわゆるVJもやっていたんだけど、
音は立体的なのに、観客が平面の映像を見ると止ってしまう感じがすることに
違和感がありました。その場に一体感がほしいと。

そもそも大学卒業後にイベント(ku-ki)を友人と主催。映像はもちろん、
音楽、メディアアート、イラスト、書家、彫刻とか色んな方と交じり合うことで
何か生まれていくんじゃないかというプロジェクトで、主に全体の空間演出を行っていました。

当時のクラブイベントではVJという存在の扱われ方も比較的ぞんざいなもので納得がいかなかったし、
空間全体を使った映像表現をすることで自分のVJとしての存在意義を模索するようになりました。
映像があるからには、その場に対して意味のある映像を作らないとつまらない。
「映像があったから、あのイベントよかったね」と言われるようなね。
学生の時から行っていた、インスタレーションで人を驚かしたり感動させることに、
喜びを感じる感覚は今も大切にしているし、表現が混ざり合うことで想像もしなかった
面白いものが生まれるんだと思っています。

ー2002年、fairgroundのno.9も主催者の一人として開催していた野外イベント『蟲の響』にも参加していましたよね。

学生時代からの友人で、VJとしては先駆者的な存在として活躍していたosamucomの紹介でJoeさんに出会いました。
彼も発想を大切にする表現者だし、他の多くのVJや映像作家が参加している野外イベントだったので、
彼らと色々やり取りしながらやってこれたのは大きいかな。山に投影してみようとか、色々話し合っていって、
様々な手法を試すことが出来たイベントでした。野外なので当然雨の日もありました。
そこで、映像を山の上からフロアに投影して、お客さんの傘に映像をあてたりね。
誰もフロアに出たくないときに、傘を刺しながらでも楽しめるような。
蟲の響以来、今でもno.9のライブの時は一緒にやったりしていますよ。

関連URL : http://www.nano-graph.com/mushinone/rave/

ーmichiさんの代表作ともいえる2004年、BANKART 1929 YOKOHAMAについて聞かせてください。

そうですね。あの時は初めて明確に僕がやりたいことを具現化できたときで、
映像で空間を作るということを体現できた瞬間だったと思います。
BANKART 1929 YOKOHAMAは古い銀行で、大きな白い柱が天井高くそびえ立つ空間です。
そこを5台のプロジェクターを使って、映像で包み込み、
田口製作所(スピーカーの音響メーカー)が素晴らしいサウンドシステムを使って
立体的な音空間をプロデュースし残響がものすごく美しい空間を作り上げていました。
そこに音楽家mjucが全チャンネルからばらばらに音を出すという効果を使いながら、素晴らしい音を奏でていました。
そうしてサウンド・ビジュアル・アートとしてひとつ大きなきっかけになり、現在の僕のスタイルが確立されたんだと思います。

関連URL : http://www.bankart1929.com/

ーそして、michiさん主催の[ Conscious ]を開催するわけですね?

2005. 8. 27 青山のスパイラルホールで開催しました。
その後ロンドンへの留学を決めていたので、集大成的なイベントをやりたかったんです。
それまでに繋がった人、アーティストなどを交え、映像から全体をプロデュースするイベントを。
それぞれのライブが舞台で一つの物語を形成するように、全出演者に前後のアーティストとの連携をとってもらい、
音楽、ダンス、パフォーマンスを映像が繋いでいくという演出でした。
素晴らしいイベントになったと思います。

関連URL : http://michiyuki.net/conscious/

ーロンドン留学について聞かせてください。

まず自分の表現が海外でやったらどう見られるかな?という思いがあったんです。
舞台女優をやっていた結婚前の妻が、文化庁が行っている海外へアーティストを派遣する制度に通り、それがイギリスだったのですが、良い機会だから僕もそれに併せて行ってみようということにしました。

最初はmixiのロンドンコミュでVJ募集を見つけて、ちょうど日本人VJがいなくなるときに代わりを探していたので、
渡英してからすぐに会いにいきました。彼らに日本での僕のスタイルや活動を見せて、
こういうことがやりたいという意志を伝えて。主宰の彼らがそうしたことに理解があり、
また東欧の人だったこともあって、移民同士で通じる所があったので、色々紹介してもらったりしました。
だからすぐにロンドンのクラブで映像・VJ活動を始めることも出来ました。
また、妻の紹介で知り合った人から、Addictive TVという当時No.1のVJチームとも繋がれたんです。
メールを送ったらいつでも遊びに来いと結構歓迎してくれたので、そこでも自分のやりたいことを話して、
彼らがよくやっているフェスティバルに呼んでもらって、
僕がやるイベントに彼らも招待したら、見に来てくれるようになってと、とにかくイギリスでは自分が行動を起こすと、
想像以上に繋がり、広がりが生まれていったし、そのスピードはイギリスと日本の大きな違いだと思います。

一度彼らにフランスのLu Cube(ル・キューブ)というメディアアート系の美術館を紹介してもらいました。
そこは美術館ながらVJの扱いなんかもあって、世界中のVJアーティストが集まって
プレゼンテーションとデモンストレーションのLIVEをやったりしているのですが、
僕も招かれプレゼンテーションとパフォーマンスをして来ました。
イギリスに渡ったときはろくに英語も喋れなかったんだけど、自分が進むことでどんどん道が開けていく感覚がありましたね。

その頃、ちょうどヨーロッパでプロジェクションマッピングの流れが出始めていて、僕が帰国する前後にちょうどその情報が聞こえ出したと思います。そしてその内容がとても刺激的で「やられたな~」という思いと同時に、これは日本でもやりたいなと感じました。
プロジェクションマッピングとは、建築物や家具などの立体物を投影対象にして、
窓や柱などを正確にマッピング(対象と映像がぴったり合うように映像を作る)し、その映像を投映します。そして動かないはずのものを動かしたり、そこにあるはずがないものを立体的に浮かび上がらせたり、建物のパーツが美しくリ・デザインされるといった、とてもファンタジックな手法です。
それは空間演出という自分のスタイルにもあっていたんです。

ーそこから現在のPMAJへと発展していくわけですね?

帰国してからは、すぐにというわけにも行かず、映像制作の仕事をしながら、
音楽ライブを始め、バレエや能などの「生」を感じるパフォーマンスとのコラボレーションを主に行っていました。

ある時、妻の営業で演劇のワークショップの話をしに逗子の小学校へ話をしにいったとき、
校長先生に、ついでに話したプロジェクション・マッピングの話を大変気に入っていただいたんです。
そしていまの逗子小学校へ移動された際に、ぜひ、うちの学校でやって一緒に子供たちを驚かせないか?と。

そこで昨年、実験的ではありましたが実際に逗子小学校にてプロジェクション・マッピングを開催しました。
そこへたまたま見にきていた、墨田区立堤小学校というまた別の学校の図工の先生にも気に入っていただいたので、廃校になってしまう学校の記念行事として、また開催させていただいたんです。

そういうきっかけのひとつひとつを受け取りやすくするためにも、
ゆくゆくは法人化して行こうと思っていたので、
今年ついにプロジェクション・マッピング協会というのを立ち上げたんです。

他にもいくつか理由があって、やはり日本のレベルは欧米にまだまだ遠く及ばない。
ばらばらでやっている状態じゃなくて、コンソーシアムや、勉強会ができる状態になればいいなと思っています。
アーティストのプロファイルができないと、ジャンルとして確立していかないという思いもありますから。
それにプロジェクション・マッピングは単なるアーティストの表現じゃなくて、
もっと行政と組んで、観光資源にもなるんじゃないかと思っています。行政とやり取りするときには組織が必要ですからね。

ゆくゆくはフェスティバル的にしようと思っています。
世界トップクラスの映像表現を日本に招いて、新しい表現を見つけていったりとか。
ぜひそういうときの費用を国から助成してもらいたいという思いもあるんです。

方向性としても3Dプロジェクション・マッピングというのような[3D]という言葉が使われているヨーロッパのレベルに対抗しようとすると、単に技術を追いかける形になってしまいがちなので、日本独自の表現として、違った角度からのブラッシュアップが必要だろうなと思っています。
今こういう時期だからこそ、ポジティブになれるような、社会的なメッセージも与えていきたいと思っています。

そして、この業界が面白くなっていく時代を担っていければと思います。

—今後の展望をお聞かせください。

人の心を動かしたり、社会を面白い方向に変えていくことが僕の目的です。
映像はそのためのツールであり、目的のためなら違うツールを使うこともあるかもしれません。
VJ業界は今、過渡期にあるので何が残っていくかが分からないし、そういう意味では刺激を感じています。
イギリスの「mag」のようにメディアを巻き込んで若い映像作家のモチベーションを上げていきたいとも思います。

映像作家はいっぱいいても、VJがなぜ育たないかというとプロになれる土壌がない、ということだと思います。
そこの幅をプロジェクションマッピング協会とかも含めて、可能性のひとつになればいいんですけどね。

それらの方法論はクリエイターが自ら生み出していかないといけない時代なんですよね。

fairgroundでは今後のmichiさんの映像活動、及び[PMAJ]を支援していこうと思っています。
たくさんのお話、ありがとうございました。

ZUSHIメディアアートフェスティバル2011

プロジェクションマッピングを中心とした、映像やメディアアートの新しい祭典。

メインとなるのは、8/6,7の夜間に行われるプロジェクションマッピングショーです。
この他に、屋内で日中でも楽しめるプロジェクションマッピングやメディアアートの空間「不思議の部屋」。
そして子どもが映像クリエイターと一緒に映像制作に挑戦する、子ども(親子)映像ワークショップがあります。
子どもから大人まで楽しめるこの新しい「ZUSHIメディアアートフェスティバル2011」を是非体験して下さい。

【日時】
 ・8/6-8/7
  プロジェクションマッピングショー「光の物語」
 ・8/4-8/7
  メディアアート・インスタレーション「不思議の部屋」
 
【会場】
 逗子小学校、逗子文化プラザ、フェスティバルパーク
 神奈川県逗子市逗子4-2-45

【料金】
 すべて無料でご覧頂けますが、当日作品を気に入って頂けましたら、
 少しずつスタッフへのカンパにご協力下さい。
 また、その一部は逗子小学校を通じて、震災被災地の小学校へ物資として送られます。
 
企画・制作:プロジェクションマッピング協会

総合プロデュース:michi(石多 未知行)
主催:こどもフェスティバル実行委員会、逗子市芸術文化事業協会、逗子市教育委員会
協力:逗子小学校、アドコムメディア、武蔵野美術大学、青山学院大学 放送ラボ
後援:逗子市観光協会、逗子市商工会
協賛:逗子市各商店・企業
機材協力:アークベル株式会社、株式会社エディスグローヴ、アイソニック、他
ホームページ:http://www.projection-mapping.jp/zushi2011
お問い合わせ:info@projection-mapping.jp

Ustream
http://www.ustream.tv/channel/zushi-maf2011

インタビュー:Joe (no.9)
写真 : natsu / michi